アイヌと自然デジタル図鑑

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アイヌ語辞典

植物編 §146 イタヤ イタヤカエデ Acer Mono Maxim.

(1)tope-ni トペニ [tope 乳汁(<to乳房、pe水)、ni木] 茎 ⦅北海道各地⦆
 注1.――乳汁の出る木の意。

(2)topen-ni トペンニ [<tope-ni] 茎 ⦅美幌屈斜路名寄
 注2.――もとはtope-niすなわち「乳汁の木」だったのが、その乳汁である樹液がたいへん「あまい」ので、topen-niすなわち「あまい・木」というふうに変わったのである。ただし、topen「あまい」という語そのものも、もとはtope(乳汁)-ne(のような)であった。

(3)si-topeni シトペニ [si(本当の)topeni(乳の出る木)] 茎 ⦅美幌⦆⦅A十勝
 注3.――美幌では乳の出る木に男女を考えている。すなわち、ホザキカエデを女と考え、それに対してイタヤを男と考えて「本当の」と言ったのだという。南の方では、「乳の出る木」という以上当然女性であると考え、長万部などでは、それに対してもらい乳の呪法さえ行われるのである。

(4)niste-ni ニシテニ [niste(堅い)ni(木)] 茎 ⦅樺太各地⦆

(5)oniste-ni オニシテニ [oniste(堅い)ni(木)] 茎 ⦅樺太各地⦆

(6)nukannis-kara-ni ヌカンニシカラニ [<mukar(まさかり)nit(柄)kar(つくる)ni(木)] 茎 ⦅真岡
(参考)早春、樹幹に傷をつけ、そこから流れ出る樹液(「ニ・ワッカ」ni-wakka[木・水]、「ニ・トペ」ni-tope[木・乳汁])を容器に受けて、そのまま飲んだり、それで飯を炊いたり、それを煮つめて飴にしたりした。樺太では、この樹液にキハダあるいはサンザシの果汁を加えて発酵させて酒を造った。この木の木質は堅いので、それで種々の器具器材を作った。
 長万部では、産婦に乳が出なかったり不足したりすると、山へ行って若いイタヤの木を選んで乳を授けてくれるように祈願する。若い木を選ぶのは、木の神でも若いのは乳飲み子をもっていて豊富に乳を出すと考えるからである。祈願するにはその木の東方に木幣を立て、祈りを捧げて、それから木幣を立てた方から皮をはいで、それを持ち帰って煎じて飲むのである。
 美幌では、この木の立ち枯れを発火器の材にした(→§298)。

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