アイヌと自然デジタル図鑑

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アイヌ語辞典

植物編 §172 キワダ(キハダ) カラフトキハダ Phellodendron amurense Rupr./ Phellodendron amurense Rupr. var. sachalinense Fr. Schm.

(1)sikerpe シケルペ 果実 ⦅北海道全地⦆

(2)sikerpe-ni シケルペニ [シケルペのなる木] 茎 ⦅北海道全地⦆
 注1.――キハダ(キワダ 黄檗=オウバク)は、北海道の和人方言では、一般にシコロ、あるいはシコロノキという。シコロノキは、シコロの生ずる木の意味で、シコロが本来は果実をさす名称であったことを思わせる。さらに古くはシコロペだったかもしれない。日本で古くこの果実を薬用にしてそれをシコノヘイと言っているからである。それについて金田一京助博士は、アイヌ語のsikerpeがシコロペになまり、それがシコノヘイになったのではないか、と言っておられる(アイヌ語と国語、国語科学講座所収、p.30)あるいは、sikorpeがもとの形で、古くその形が日本に取り入れられてシコロペ、シコノヘイとなり、一方ではsikerpeに変わって現在のアイヌ語となったのではなかろうかとも考えられる。

(3)seta-sikerpe セタシケルペ [犬・シケルペ] 果実 ⦅美幌

(4)setasikerpe-ni セタシケルペニ [犬シケルペのなる・木] 茎 ⦅美幌
 注2.――果実で特に「いがらっぽい」(ru-carkar)ものを「犬のシケルペ」と言い、そういう実のなる木を「犬シケルペのなる木」と呼んで、別種に取り扱っている。

(5)sikerepe シケレペ 果実 ⦅真岡

(6)sikerepe-ni シケレペニ [シケレペの木] 茎 ⦅真岡

(7)sikerepani シケレパニ 茎 ⦅白浦

(8)sikerepani-tureh シケレパニト・トゥレヘ [シコロノキの・果実] 果実 ⦅白浦

(9)tesma-kara-ni テシマカラニ [tesma(かんじき)kara(作る)ni(木)] 茎 ⦅多蘭泊
(参考)秋になるとこの果実を多量に採集した。それには、枝のついた木を利用して作った「ナウケプ」(nawkep)(北海道)、あるいは「タパ」(tapa)(樺太)と称する木鉤で採った。果実には甘いのと苦いのとがあり、甘いのは生でも食べた。これを食べれば回虫が湧かぬと信じて盛んに食べた。この果実を煮た汁で、飯をたいて食うこともあった(美幌)。
 この果実はまた乾かして貯えておき、冬になって特別の料理に使った。まず昆布とささげ豆とを一緒に煮てどろどろになったものに、この果実を入れ、それが煮える頃にもち粟を一掴み入れ、その他サイハイランやヒルガオの根、オオウバユリの鱗茎なども入れて、ごた煮にする。これを「シケレペ・ラタシケプ」(sikerpe-rataskep)、または単に「シケレペ」(sikerpe)と言った(幌別)。
 またアザラシの油を煮立てた中にオオウバユリの団子とギョウジャニンニクとこの果実を入れご馳走にしたり、乾かしておいたこの果実を半日位煮て潰し、凍鮭の筋子を入れてかきまぜてさまし、凍鮭を細かく切って塩湯に入れて解かし、それをすくい上げて前のものをかけて客用のご馳走を作った(D 屈斜路)。
 またこの果実を煮て潰してザルで漉して種子を除きそれを煮つめて喘息の薬にした。しもやけには、この果実とサイハイランの根とを潰して練り合わせてつけた。また関節の痛みには、この木の皮で温湿布し、のぼせて乾いた唇をこの皮でこする。また小児が虫を起こした時、この実を噛んで脳天(etontonke“ひよめき”の所)や足の裏に塗り付けた(幌別)。
 のどの病気に、この内皮の乾燥したものを粉末にして、葦(アシ)のようなものでのどに吹き付けてやった(釧路)。
 樺太でも、この果実をジャムのごとく煮つめたものを、胃病に毎日少量ずつ服用したというし、打身や腫物にこの皮を煎じて患部に御罨法をなし、またはこの皮の粉末を熊または犬の脂肪で練って患部に塗布しておくと言い、ロイマチス(=リウマチ)にもこの粉末とノダイオウの粉末とを等分に混合して、酢で練り、紙または布切れに伸ばして患部に貼り、時々取り換えると言い、口唇の荒れにもこの皮の亜皮を涎に浸して何回となく患部にすりつけるという(H 樺太落帆)。この樹皮はまた、それで屋根を葺き、あるいは壁敷物にしたというし(松浦竹四郎、久摺日誌)即製の樹皮舟を作ったというし(犬飼哲夫、アイヌの木皮舟、北方文化研究報告第一輯)、また、幌別ではそれの煎汁を染色(「イソメ」isome)に用いた。黄色のことを「シケルペ・ペ・ウシ」sikerpe-pe-usすなわち「キハダの・液が・ついている」というのも、そこから由来している。
 北海道各地で、キハダの木は金で、ミズキは銀で、ハンノキは銅だと言われ、最も尊い神へ捧げる木幣をこの木で作る。美幌では、熊を送る時だけこの木で作った木幣を使う。また、飼熊の食椀「ペウレプ・オイペピ」(pewrep oipepi)もキハダで作るが、それは金の椀「コンカニ・イタンキ」(konkani itanki)でご馳走する意味だという。天塩川筋では熊よりもエゾフクロウを尊び、エゾフクロウを送る時はキハダの木幣を使い、クマを送るにはミズキ、沖の神を送るにはハンノキの木幣を使う。
 果実を食べた後で、その「ケッチャ」(ketca 果柄)をいくつか集めて「シケルペ・ケッチャ・キライ」sikerpe(キハダの実)ketca(果柄)kiray(櫛)というものを作って、それで髪をとかした(美幌)。

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