植物編 §201 エゾノコリンゴ Malus baccata Borkh. var. mandshurica Schneid.
(1)setar セタル 果実 ⦅長万部、様似、名寄、足寄、美幌⦆
(2)setanni セタンニ [<setar-niセタルのなる木] 茎 ⦅足寄、美幌、屈斜路、春採、名寄、様似、長万部⦆⦅A沙流・鵡川・千歳・石狩⦆
(3)setani セタニ [<setanni] 茎 ⦅幌別、名寄⦆
注1.――setanniがsetaniになったのには、seta(犬)-ni(木)の連想が働いているであろう。いわゆる縁語牽引(attraction paronymique)だ。
(4)setayni セタイニ [<setanni] 茎 ⦅A有珠⦆
(5)setanni-epuy セタンニエプイ [setanni(エゾノコリンゴの木)epuy(果実)] 果実 ⦅美幌⦆
注2.――セタルが果実をさす語で、セタンニがその果実の生ずる木の意味であることを知らぬ若い世代がこの語を使った。
(参考)この木の花は漁の予兆となる。すなわち、それが多く咲く年は鮭が豊漁だ(屈斜路)。往時、山で熊穴の所有権を争うような場合、この木で「セタンニシトゥ」setanni-situ[エゾノコリンゴの木のこん棒]と称する、急ごしらえの決闘用のこん棒を作った。そのことを叙事詩曲の中で、次のように述べている(美幌)。
tanne ciyay 長いとげ
an-takne-tuye 短く切り
takne ciyay 短いとげ
an-tanne-tuye 長く切り
setanni-situ サンナシのこん棒
an-tunas-karkar 手早く作る