植物編 §224 ノリウツギ Hydrangea paniculata Sieb.
(1)rasupa-ni ラスパニ [ラスパの木、ラスパを作る木] 茎 ⦅長万部、幌別、足寄⦆
(2)rasupa ラスパ [槍の柄と穂先とを継ぐ棒] 茎 ⦅胆振、日高、足寄、美幌、斜里、名寄⦆
注1.――アクセントを語頭においてrásupaと発音する所もある(虻田郡礼文華)。槍・矛・銛等の柄と穂先とを継ぐ尺余りの棒を北海道では「ラスパ」、樺太では「ラスマ」または「オホサニシ」という。rasuma<rasupa<rasu(その割り木、その木片)pa(頭)。ohsanis<oh(<op(槍柄)-san(前の)-nis(<nit棒)。この継ぎ棒はもっぱらノリウツギの材で作ったので上記(1)(2)及び下記(3)の名称が生じたのである。
(3)opsa オプサ [<op(槍)-sa(前)] 茎 ⦅日高東半[荻伏・浦河・様似]、屈斜路、常呂⦆
注2.――多分op-san-nit(槍柄の・前の・棒)の下略形。→注1、参照。
(4)kinneni キンネニ [<kir(髄)-ne(になっている)-ni(木)] 茎 ⦅真岡⦆
(5)kisiri-ni キシリニ [きせる・木] 茎 ⦅真岡⦆
注3.――この木の茎には太い木髄が通っているので(4)の名称があり、それを利用して煙管(ni-kiseri)を作ったので(5)の名称があるのである。
(6)hure-ni フレニ [赤い・木] 茎 ⦅白浦、鵜城⦆
注4.――もとはku-ne-ni(弓矢・になる・木)ででもあったろうか。
(7)ni-tope ニトペ [木の・乳汁] 内皮のどろどろ ⦅天塩⦆
(参考)この木は各地で槍柄の継ぎ棒を作るのに用いた(→注1)。またこれは各地で煙草をのむ煙管を作るのに用いた(→注3)。十勝の足寄では「カムイ・キセリ」kamuy(神)-kiseri(煙管)と言って、熊祭りの際に熊の頭の前に置いて熊の霊に喫煙せしめる二股の煙管をやはりこれで作った。
(参考)樺太の真岡ではこれで羅宇(ラウ)を作りそれに頭(kisiri-sapa、kakumpe)をつけて煙草を吸った。またこれで火ばさみ(「ウサトホニ」usatohni<usat-uk-niおきを・つかむ・木)を作った。美幌や屈斜路でも、煙管(serempo、ni-kiseri)を作った他に、火ばさみ(「アペフッニ」apehutni<ape-uk-ni火を・つかむ・木)を作った。この火箸はピンセットのように繋がった形のもので、火箸の用を足した他に、「トピシキイトッパ」(to-piski-itokpa日を・数える・刻み目)と言って、手もとの側面に日数を一つ一つ刻みつけて行って心おぼえにしたり、熊祭りの際肉を分配すべき人数を刻みつけて記憶の助けにしたりした。その他に炉せん(ape-kiray火・櫛)なども作った。天塩でも煙管や火ばさみ(ape-pasuy火・箸)を作り、また仕掛弓の矢の柄(ay-sup)や熊祭りの花矢(ciros)を作った。幌別では、この皮を煎じて疥癬の患部を洗った。ある種ののどの病気(のどがかわいてからからになるもの)にこの木を煎じて飲んだ(鵜城)。