植物編 §271 ハコベ Stellaria media Cyr.
(1)iharemun イハレムン [i(それを、=腫れを)ha-re(引か・せる)mun(草)] 茎葉 ⦅幌別・礼文華⦆
(2)imakina イマキナ [i(それを)ma(あぶる・温める、温湿布する)kina(草)] 茎葉 ⦅荻伏⦆
(3)riten-kina リテン・キナ [やわらかい・草] 茎葉 ⦅白浦⦆⦅A千歳・空知⦆
注.――いわゆる形容詞は意味の上で例外なしに2つのアスペクトをもつ。従って「リテン」にも、a)「やわらかくある」(=「やわらかい」)、b)「やわらかくなる」、という二つの場合があって、後者からは「治癒する」という意味も出て来る。アイヌでは、棒のように堅いものは悪いもので、例えば「ニッネ・カムイ」(nit棒、ne状の、kamuy神)といえば、魔神を意味する。だから、やわらかくなることは、治ることなのだ。アイヌはおそらく、「リテン・キナ」の「リテン」に「治る」ことを意識しつつ、それを治療に用いたであろう。
(参考)虫に刺されて腫れたところへ、この茎葉を塩でもんで付けた(幌別)。打身あるいは骨の痛みに、この茎葉を熱湯に浸して罨法した(B)。産後の悪血に、生の茎葉を蒸し温めてそれで罨法した(同上)。