植物編 §359 バイケイソウ Veratrum album L.var. grandiflorum Maxim.
(1)sikup-sikup シクプ・シクプ [成長せよ!成長せよ!] 茎葉 ⦅幌別⦆⦅A有珠⦆
注1.――幌別では、成長が遅くていつまでも立てない子がいると、春先すくすくと伸びたこの草を取って来て、
sikup(成長せよ)!
sikup(成長せよ)!
と唱えながら尻を叩いた。sikup-sikupという名称はそこから来ている。
(2)sikup-kina シクプ・キナ [成長する・草] 茎葉 ⦅厚真、穂別⦆⦅A沙流・鵡川・石狩⦆
注2.――春早く元気にすくすくと伸びて行くのでこの名があり、そこから注1に挙げたような土俗も生じたと見られる。
(3)poysikupkina ポイシクプキナ [poysi(赤児)siku(成長する)kina(草)] 茎葉 ⦅名寄⦆
注3.――poysiはpon(小さい)-si(糞)で、赤児をさす。赤児をさす名称には、汚物から来たものが多い。
「テイネシ」teynesi[teyne(濡れた)si(糞)]“べた糞”
「テイネプ」teynep[teyne(濡れた)p(もの)]“べとべとの者”
「テンネプ」tennep[<teynep]“べとべとした者”
「セタシ」setasi[seta(犬)si(糞)]“犬の糞”
「ポイシ」poysi[pon(小さい)si(糞)]“小さい糞”
「ポイソマプ」poysomap[pon(小さい)si(糞)oma(に入っている)p(もの)]“小さい糞まみれの者”
「シタクタク」sitaktak[si(糞)tak(塊)]“糞のごろごろした塊”
「シオンタク」siontak[si(糞)on(風化した)tak(塊)]“古糞の塊”
「ソンタク」sontak[<siontak]“古糞の塊”
「シオン」sion[<siontak]“古糞”
「ポイシオン」poysion[pon(小さい)sion(<siontak)]“小さい古糞”
「ケンネヘ」kenneh[kem(血)ne(になっている)h(<p者)]“血まみれの者”
「ポンケンネヘ」ponkenneh[pon(小さい)kenneh(血まみれの者)]“小さい血まみれの者”
以上いずれも汚物から由来した名称である。愛児を呼ぶに汚物をもってするのは、こういうふうに呼べば、病魔が汚がって近づかぬと考えていたからである。
(4)kuh-kina クフ・キナ [sikuh-kina(<sikup-kina)の上略形] 茎葉 ⦅白浦⦆
(5)hoskiteyne ホシキテイネ [hoski(先に)teyne(べとべとになる)] 茎葉 ⦅美幌⦆⦅A石狩・千歳・十勝⦆
注4.――この草は成長するのも早いが枯れるのも早い。枯れると茎が倒れてべとべとになるのでこの名がある。
(6)nosketeyne ノシケテイネ [<noski-teyne] 茎葉 ⦅美幌、屈斜路⦆
注5.――コタン生物記(D屈斜路)に、“ノシケは真ん中の意で、テイネはつぶれるという事を言い、この草の枯れて倒れた茎は皮がズルズルするので、鹿を追って行ってよくこれをグシャリと踏みつぶし、すべって仰向けにひっくり返り、まごまごしているうちに鹿の姿を見失って、腹立ちまぎれに「このふんつぶれ野郎」といった悪口であるらしい”、とあるのは興味がある。“このふんつぶれ野郎”というのを“このべとべと野郎”と言い換えるならば、それがそのまま民衆語源解の好適例になるからである。noske(まんなか)-teyne(べとべとになる)。