アイヌと自然デジタル図鑑

MENU

アイヌ語辞典

植物編 §392 テンキグサ ハマニンニク Elymus mollis Trin.

(1)murit ムリッ 茎葉 ⦅幌別
 注1.――文献には次のように出ている。
  『ムリ』⦅A⦆⦅B⦆
  『ムーリ』⦅鳥居龍蔵、千島アイヌ、pp.45,193⦆
 注2.――北海道の漁村では、和人も「ムリッチ」という。

(2)muruh ムルフ 葉 ⦅白浦

(3)moroci-kina モロチ・キナ 茎葉 ⦅ エトロフ

(4)ray-mun ライ・ムン [ray(死)mun(草)] 葉 ⦅白浦落帆
 注3.――なぜ「死の草」なのかは参考の部で説明する。

(5)matahci マタハチ [<msahci<masar(浜の草原)-ci(陰茎)] 穂 ⦅真岡

(6)masahsikem マサハシケム [<masahci-kem、masahci<masar(浜の草原)-ci(陰茎)kem(針)] 葉 ⦅白浦
 注4.――masahci(浜の草原の陰茎)が稈及び穂で、kem(針)が葉である。葉をkemと言ったのは、アイヌは裸足で浜を歩いたので、特にこの植物の堅くとがった葉を針と感じる機会が多かったからであろう。
(参考)葉を乾燥して「テンキ」tenkiと称する糸や針などを入れる小型の容器を編んだ(幌別、エトロフ)。テンキグサという名称はテンキを編む草の義であろう。ただし、テンキなる語は、ⅰ)「手笥」などというような日本語があってそれがアイヌ語に取り入れられたか、ⅱ)あるいはそれが固有語だとすればこの草をもとテンキと言い、それで編んだ容器だからテンキと言ったのであろう。ten-ki<riten-ki[やわらかい・稈]か。
 これで笠も作ったらしい(真澄遊覧記」。千島では、これで縄をこしらえて土鍋のつるにしたという(鳥居龍蔵、千島アイヌ、p.193)。北海道では「ムリル」murirと称する葬式の際死者に使う平ひもも元はこれで編んだ。murirとmuritはもと同じ語だったと思われる。「ライ・ムン」(死の草」というのもそれに関係があろう。樺太ではこれで樹皮などを束ねたり、ござを織ったりした(白浦、落帆)。
 北海道ではこれを薬にもした。すなわち、全草を煎じて食傷に服用し、あるいは根を干しておいて風邪の際に煎じて飲んだ(幌別)。

一覧へ戻る

ページの先頭へ戻る