植物編 §401 ヒエ Panicum Crusgalli L.var. frumentaceum Trin.
(2)aynu-amam アイヌ・アマム [アイヌの・穀物] 種子 ⦅幌別、平取⦆
アイヌは、これに種々の種類を区別した。幌別では、次のような品種があった。
(3)numa-us-piyapa ヌマウシピヤパ [numa(毛)us(多く生えている)piyapa(ヒエ)] ⦅幌別⦆
(4)numa-sak-piyapa ヌマ・サク・ピヤパ [numa(毛)sak(ない)piyapa(ヒエ)] ⦅幌別⦆
(5)kunne-piyapa クンネ・ピヤパ [kunne(黒い)piyapa(ヒエ)] ⦅幌別⦆
(6)retar-piyapa レタル・ピヤパ [retar(白い)piyapa(ヒエ)] ⦅幌別⦆
また、バチラー博士によれば、次のような品種があった(アイヌ人とその説話)。
(7)ay-sak-piyapa アイ・サク・ピヤパ [ay(とげ)sak(ない)ピヤパ(ヒエ)] ⦅バチラー、アイヌ人とその説話⦆
(8)hure-piyapa フレ・ピヤパ [hure(赤い)piyapa(ヒエ)] ⦅バチラー、アイヌ人とその説話⦆
(9)cak-piyapa チャク・ピヤパ [cak(はぜる)piyapa(ヒエ)] ⦅バチラー、アイヌ人とその説話⦆
(10)setak-piyapa セタク・ピヤパ [setak(早生の)piyapa(ヒエ)] ⦅バチラー、アイヌ人とその説話⦆
(11)yamrayta-yoko-amam ヤムライタ・ヨコ・アマム [yam-rayta(クリ・いが)yoko(ねらう)amam(穀)] ⦅バチラー、アイヌ人とその説話⦆
(参考)アイヌの信仰によれば、アワとヒエとは、「ウムレク・ハル・カムイ」umurek-haru-kamuy「夫婦の・食糧・神」で、ヒエは女性であるから祈り詞では「モシル・コル・ハル、チランケ・ハル、ハル・カッケマッ」mosir-kor-haru ci-ranke-haru haru-katkemat(国土を・支配する・食糧、天下った・食糧、食糧・夫人)と呼ばれる。
人間の始祖オキクルミ(Okikurmi)が、天界のヒエの種を盗んで、自分のすねを切り裂き、その中へ隠して天下ったのがこの世のヒエの起源であるとする神話もある通り、アイヌはヒエをもって太初から存在するものと考えている。従って、あらゆる穀物の中で最もこれを尊び、晴の日の食糧としてシトギや酒に造り、また遠く旅する際は、身の守りとして少量でもかばんの中へ入れて携える習いである。