アイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブ

凡例

 

1 ローマ字表記とカナ表記

 

(1)原則として田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』(1996)に準じます。 詳しくは同書の「本書を利用するために」、および「アイヌ語沙流方言略説」をご覧下さい。

 

 ただし、カナ子音の表記は半角カナを用いました。例)クシハヒフヘホプムラリルレロ

 

 

母音
  a i u e o
子音+母音
  ka ki ku ke ko
sa si su se so
ta     トゥ tu te to
チャ ca ci チュ cu チェ ce チョ co
na ni nu ne no
ha hi hu he ho
pa pi pu pe po
ma mi mu me mo
ya     yu イェ ye yo
ra ri ru re ro
wa ウィ wi     ウェ we ウォ wo
母音+子音
  アク ak イク ik ウク uk エク ek オク ok
アシ as イシ is ウシ us エシ es オシ os
アッ at イッ it ウッ ut エッ et オッ ot
アン an イン in ウン un エン en オン on
アプ ap イプ ip ウプ up エプ ep オプ op
アム am イム im ウム um エム em オム om
アイ ay     ウイ uy エイ ey オイ oy
アラ ar イリ ir ウル ur エレ er オロ or
アウ aw イウ iw   エウ ew オウ ow
子音(例としてカ行の音)+母音+子音
  カク kak キク kik クク kuk ケク kek コク kok
カシ kas キシ kis クシ kus ケシ kes コシ kos
カッ kat キッ kit クッ kut ケッ ket コッ kot
カン kan キン kin クン kun ケン ken コン kon
カプ kap キプ kip クプ kup ケプ kep コプ kop
カム kam キム kim クム kum ケム kem コム kom
カイ kay     クイ kuy ケイ key コイ koy
カラ kar キリ kir クル kur ケレ ker コロ kor
カウ kaw キウ kiw     ケウ kew コウ kow

 

 

2 ローマ字表記の記号など

 

 従来、カナ・ローマ字を併記する場合には、ローマ字表記は辞書にある形で表記し、カナ表記は実際の音に近く表記する方法が一般的でした。そのため、転写(聞き起こし)はローマ字で行った後、カナ表記はもう一度音を聞きながら確認する作業が必要でした。

 一方このアーカイブでは、ローマ字表記で転写したものをプログラムを使って自動でカナ変換しています。そのため、本来のローマ字表記(辞書の見出し語の形)に、音素交替などの現象を示すいくつかの記号類を追加しています。それらを含め、ローマ字表記とカナ表記の自動変換の対応関係を以下に示します。 人称接辞を示す@のように、公開用データでは非表示にした記号もあります。

 

使用する文字・記号等対照表(第一版 20170611作成)

ローマ字

カナ・日本語

説明・例

※(全角)

 

注釈用 (公開用データでは原則として非表示)

@(半角)

 

人称接辞のマーク用。(公開用データでは原則として非表示)

例)@a= @=an @ku= @i=

“(全角)

「(全角)

セリフを括るカッコ(始まり)

”(全角)

」(全角)

セリフを括るカッコ(終わり)

‘(全角)

『(全角)

セリフ中のセリフ(始まり)

’(全角)

』(全角)

セリフ中のセリフ(終わり)

半角スペース

全角スペース

語の区切り

=(半角)

(ナシ)

人称接辞と語幹との区切り

 

逐語訳では半角中点・に

例)a=kor  私が・を持つ

-(半角)

(ナシ)

その他の語中の区切り

...(半角ピリオド×3)

… (全角三点リーダ)

言いさし

.(半角ピリオド)

。(全角)

句点

,(半角カンマ)

、(全角)

読点

((半角)

((全角)

 

)(半角)

)(全角)

 

?(半角)

?(全角)

疑問符

!(半角)

!(全角)

感嘆符

%(半角)

(ナシ)

見出しとしない構成要素のマーク用

'(半角)

 

声門閉鎖音(子音の一つ)。語頭の声門閉鎖音は表記せず、語内部のみ表記。
例)inkar'@=an インカラアン inkar@=an インカラン (私達が見る)

`(半角)  

子音+母音の場合に、母音に声門閉鎖音 ' はないが、子音と続けて発音されないことを示す。( ' は音韻レベル、` は音声レベルを意図したが、実際には両者とも ' を用いている場合が多い)

例)hawoka ハウォカ haw`oka → ハウオカ (〔二人以上が〕言う)

_h(半角アンダーバー1つ)

(脱落) _hine イネ (して)

_y

 

(脱落) _ya? ア? (か?)

__h(半角アンダーバー2つ)

(脱落+続けて発音)hawean __hi ハウェアニ  (話したこと)

__y

 

(脱落+続けて発音)nankor __ya? ナンコラ?  (だろうか?)

_a(半角アンダーバー1つ)

(語尾の子音と語頭の母音が続けて発音)
例)cis _a cis _a チサ チサ  (さんざん泣く)

_i

 

例)oar _isam オアリサム (全くない)

_u

 

例)or _un オルン (…へ)

_e

 

例)mat _etun マテトゥン (嫁をもらう)

_o

 

例)pet _or _un ペトルン (川へ)

__a(半角アンダーバー2つ)

(語尾の母音と語頭の母音が続けて発音され、後者が脱落)

__i

 

 

__u

 

例)a=kotanu __un アコタヌン (私の村の)

__e

 

 

__o

 

 

r_ n

ン n

例)a=kor_ nispa アコン ニシパ (私の旦那)

r_ r

ン r

例)kor_ rusuy コン ルスイ (持ちたい)

r_ t

ッ t

例)or_ ta オッタ (…に)

r_ c

ッ c

例)yar_ cise ヤッ チセ(参考:yar cise ヤラ チセ 樹皮ぶきの家)

n_ s

イ s

例)pon_ su ポイ ス (小鍋)

n_ y

イ y

例)pon_ yam ポイ ヤム(参考:pon yam ポン ヤム 小さい栗)

n_ w

ウ w

 

n _w

ン m

例)san _wa サン マ (〔浜手へ〕出て)

n_ m

ン m

 

m _w

ン m

例)isam _wa イサン マ (無くて)

p _w

ッp

例)sap _wa サッパ (行って)

kk

ッk

例)kikkik キッキク (…を何度も打つ)

mp

ンp

例)tampaku タンパク (たばこ)

mm

ンm

例)umma ウンマ (馬)

pp

ッp

例)rappa ラッパ (〔二人以上が川下へ〕下りる)

tc

ッc

例)patci パッチ (鉢)

tk

ッk

例)katkemat カッケマッ (婦人)

tt

ッt

例)nisatta ニサッタ (明日)

ss

ッs

例)assap アッサプ (櫂)

p

プ

半角カナ

t

(全角)

k

半角カナ

s

半角カナ

m

半角カナ

r

ラリルレロ

半角カナ

h

ハヒフヘホ

半角カナ

w

(全角)

y

(全角)

XXX

 

よく聞きとれない音

 

 

 

3 逐語訳と文法タグ(グロス)

 

(1)逐語訳

 当館の伝承記録、民話ライブラリ等のシリーズで逐語訳を作成済みの場合、これを転載しました。「逐語」ボタンをクリックすると、上段にアイヌ語カナ表記、下段に逐語訳を表示します。逐語訳では、一語ごとの言語学的な情報は「文法」(グロス)に譲り、文章の横のつながりの中で意味がとれるように簡略化して表示しています。より正確な逐語訳は「文法」(グロス)をご覧下さい。

 

(2)文法タグ(日本語グロス)

 小林美紀氏(藤女子大学非常勤講師)が担当しました。入力済みのアイヌ語資料には「アイヌ語全文」画面の右下に「文法」ボタンが表示され、これをクリックすると、上段に語構成、下段に日本語グロスを表示します。

 記述方法の詳細については以下に詳しく記載されています。下表はその引用です。

『アイヌ語の保存・継承に必要なアーカイブ化に関する調査研究事業 第2年次(北海道沙流群平取町)報告書1/3』(PDF 2.59MB)(平成27年3月 国立大学法人 千葉大学)pp.18-19

 

略語 日本語 日本語グロス
1/2/3/4 1/2/3/4人称 1/2/3/4
Ø ゼロマーカー3人称  
= 屈折の境界 =
- 派生の境界 -
A 他動詞主語 他主
ADV 副詞的 副形成
AO 充当相の目的語  
APASS 逆受動 人/もの
APPL 充当相  
ARG  
AUX 助動詞 助動
CAUS 使役 〜させる
CLF 類別  
COHR 勧誘 〜しよう
COMP 補文標識 ということ
COP コピュラ である
DIM 指小辞 指小辞
DESID 願望 〜したい
EMP 強調詞
EP 挿入子音 挿入子音
EXC 除外的 除外
EXCL 感嘆詞 よ/ね
FIN 終助詞 よ/ね/な/ぞ/ぜ
INC 包括的 包括
INDF 不定 4人称
INFR.EV 推量の証拠性 〜の
IMP. POL 命令丁寧形 命令.丁寧
NEG 否定 ない
NONVIS.EV 非視覚的感覚の証拠性 〜の感じ
NMLZ 名詞化辞 名詞化
O 目的語
PERF 完了 完了
PL 複数
POSS 所有 所有
P.RED reduplication 部分的重複
PROH 禁止 決して〜するな
RES 結果態 〜された
Q 疑問詞
REC 相互 互い
REFL 再帰 自分
REP 伝聞の証拠性 〜そう
S 自動詞主語 自主
SG 単数
SGST   だろう
SOC 共格 共に
sth 不定 もの
TOP 主題 〜は
VBLZ 動詞化辞 動詞化辞
VIS 視覚の証拠性 〜の様子
TVS 他動詞形成接尾辞 他形成
IVS 自動詞形成接尾辞 自形成
PF 接頭辞 接頭

 

 

4 参考文献

 

参考文献は以下の通りです。([ ]は略号 )
・[奥]奥田統己 ( 編 )『アイヌ語静内方言文脈つき語彙集(CD-ROM つき)』(札幌学院大学、1999 年)
・[萱]萱野茂『萱野茂のアイヌ語辞典』(三省堂、1996 年)
・[久]久保寺逸彦 ( 編 )『アイヌ語・日本語辞典稿―久保寺逸彦 アイヌ語収録ノート調査報告書―』(北 海道教育委員会/北海道文化財保護協会、1992 年)
・[集大成]萱野茂『ウウェペケレ集大成』(アルドオ、1974 年)
・[田]田村すず子『アイヌ語沙流方言辞典』(草風館、1996 年)
・[中]中川裕『アイヌ語千歳方言辞典』(草風館、1996 年)
・[早稲田5]田村すず子『アイヌ語音声資料 5 ─二風谷の昔話と歌謡・神謡─』(早稲田大学語学教育研究所、1988 年)
・[早稲田6]田村すず子『アイヌ語音声資料 6 ─国松さんと幸作さんの昔話─』(早稲田大学語学教育研究所、1989年)
・[早稲田10]田村すず子『アイヌ語音声資料 10─川上まつ子さんの昔話と神謡─』(早稲田大学語学教育研究所、1997 年)

・『アイヌ語日常会話集1 凍ったミカン』(片山言語文化研究所、1992年)
・萱野茂『炎の馬』(すずさわ書店、1977 年)
・萱野茂『萱野茂のアイヌ神話集成』1〜6(平凡社、1998年)
・知里真志保『地名アイヌ語小辞典』(北海道出版企画センター、1988 年、復刻3刷)

・知里真志保『分類アイヌ語辞典 植物編』(日本常民文化研究所、1953年)
・知里真志保『分類アイヌ語辞典 動物編』(日本常民文化研究所、1962年)
・山田秀三『北海道の地名』(草風館、2000年)
・『アイヌ関連総合研究等助成事業研究報告第 3 号』(財団法人アイヌ文化振興・研究 推進機構、2004 年)
・『アイヌ語の保存・継承に必要なアーカイブ化に関する調査研究事業第2年次(北海道沙流郡平取町)調査研究報告書』1/3〜3/3(国立大学法人千葉大学、2015年)
・『アイヌの民話1』(アイヌ無形文化伝承保存会、1983年)
・『アイヌ民族博物館開館 30 周年記念誌』(アイヌ民族博物館、2014 年)
・『アイヌ民族博物館伝承記録3・昔話 上田トシのウエペケレ』(アイヌ民族博物館、1997 年)
・『上田トシさんの昔話と神謡1』(アイヌ民族博物館、2014年)
・『上田トシの民話』1〜3(アイヌ民族博物館、2015年)
・『ほっかいどうアイヌ語アーカイブ』(北海道アイヌ民族文化研究センター)
・『北海道立アイヌ民族文化研究センター紀要第 3 号』(北海道立民族文化研究センター、1997 年)
・『北海道立アイヌ民族文化研究センター紀要第 4 号』(北海道立民族文化研究センター、1998 年)
・『北海道立アイヌ民族文化研究センター紀要第 5 号』(北海道立民族文化研究センター、1999 年)
・『北海道立アイヌ民族文化研究センター紀要第 8 号』(北海道立民族文化研究センター、2002 年)
・『北海道立アイヌ民族文化研究センター紀要第 11 号』(北海道立民族文化研究センター、2005 年)
・『北海道立アイヌ民族文化研究センター紀要第 17 号』(北海道立民族文化研究センター、2011 年)
・『北海道博物館アイヌ民族文化研究センター研究紀要第1号』(北海道博物館、2016年)
・『北海道博物館アイヌ民族文化研究センター研究紀要第2号』(北海道博物館、2017年)

 

 

 

5 その他の注意点

 

・コンテンツの中に不適切な表現が含まれる場合がありますが、資料性を考慮し、原則としてそのまま公開しています。

・個人情報を含むコンテンツについては、必要に応じて信号音(ピー)で置き換えたり、削除等の編集を行いました。また長い沈黙や雑談など資料性がないと判断したデータも適宜編集しました。ただし、すでに周知の人名(伝承者名など)は、本人の名誉を損なうものでない限りそのまま公開しました。

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