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月刊シロロ

月刊シロロ  5月号(2017.5)

 

 

 

《トピックス》アイヌ語アーカイブ公開開始! 

 

 文:安田益穂

 

▲トップ画面(http://ainugo.ainu-museum.or.jp

 

はじめに

 

 アイヌ民族博物館は1976年の設立以来、各地のアイヌ文化伝承者を対象に、音声と映像による伝承調査を行ってきました。伝承者の多くは1990年前後に亡くなりましたが、後には約670時間の音声資料と、約700時間の映像資料が残されました。内容はアイヌ民族の口承文芸、アイヌ語、芸能、儀式、製作技術などです。その後も整理作業を続け、このたび「アイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブ」のWEB公開を開始しました。

 今回公開したのは、アイヌ語沙流方言の物語74編、その他の音声資料16件、沙流・静内の映像資料4件、計約40時間分です。これは全体からすれば5%にも満たない量ですが、2015年に当館が刊行した『アイヌ民話ライブラリ』20巻分に相当します。

 本来であれば親から子、子から孫へと受け継がれるべきアイヌの伝承ですが、博物館とこのアーカイブが「アイヌ語一時預かり所」となって時間と地域の空白を埋め、若い世代が一人でも多く受け取りに訪れてくれることを願います。

 今後も整理作業の済んだものから追加公開する予定です。ご期待下さい。

 

主な特徴


1.音声、映像の全文をテキスト化し、WEB公開。

2.音声とテキスト、映像とテキストの連動。

3.単語検索、資料検索、辞書検索等、多様な検索機能。

4.カナ・ローマ字表記、逐語訳、文法情報等、多様な表示方法  ほか

 

主な画面構成と利用法

 

 詳しい操作方法はユーザーガイドを見ていただくとして、主な機能に絞ってご紹介します。

1.検索画面

 アイヌ語音声資料(口承文芸等)、音声・映像資料全文、アイヌ語辞書から単語検索できます。検索結果画面(下)では検索語を含む行が表示され、スピーカーのアイコンをクリックするとその行を再生します。文字をクリックすると右側にその行を含む資料の全文を表示します。

 

2.アイヌ語音声資料

 左の画面で物語を選ぶと、右に全文が表示されます。スピーカーのアイコンをクリックすると、その位置から再生が始まり、音声に合わせて文字画面も自動でスクロールします。右下のボタンでカナ表記、ローマ字表記、和訳、逐語訳、文法タグ(グロス)を選んで表示できます。

 

 

3.音声資料

 口承文芸に限らず、様々な分野の聞き取り調査の音声を聞くことができます。今回は川上まつ子さんの初期の音声資料を公開しました。こういった音声資料が全体で500時間分あります。

 

4.映像資料

 YOUTUBEと連動します。動画をテキスト化した右の画面でフィルムのアイコンをクリックすると、その場面の動画が見られます。また再生にあわせて右の画面が自動でスクロールします。(254行目の川上まつ子さんの言葉に注目)

 まずはあちこちクリックしてみて下さい。まだ不具合が多く含まれていますが、順次改善する予定ですのでお許し下さい。

 

 

 

 

《シンリッウレシパ(祖先の暮らし)21》アイヌの衣服文化⑷ 樺太アイヌの防寒帽 

 

 文:北原次郎太(北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授)

▲キャップ型 西平ウメ氏製作 アイヌ民族博物館収蔵(№60524)

 

はじめに

 

 樺太アイヌは被り物を総称してハハカといいます。樺太アイヌの民具についてまとめた山本祐弘氏の『樺太アイヌ・住居と民具』には、ウイルタ語でも帽子をハハカと呼ぶこと、樺太アイヌの古謡(文学)においては北海道アイヌと共通したコンチという言葉が使われることが書かれています(注1)

 冬用の帽子は、木綿で作られ、綿を入れてキルティング加工をしてあります。刺繍と下げ飾り、頭頂部の飾りなど、造形的にも美しく仕上げられた物が多く見られます。

 形の上では、キャップ型のもの(写真1)と頭巾型のもの(写真2)があります。写真1は、東京大学が1907(明治40)年8月に樺太東海岸シララカ(白浦)で収集した帽子で、ソリの御者用とされています。写真2は、同じく樺太東海岸オタサン(小田寒)出身の西平ウメ氏が製作した帽子です。このように頭巾の縁の部分に毛皮を被せたものをイカムハハカ(袷帽)と言い、キツネの毛皮を用いたものをスマリハハカ(キツネ帽)と言います。毛足の長い毛皮をあてたものは、モフモフとしてたいへん可愛らしいものもあります(写真3)。

▲写真1 キャップ型 国立民族学博物館収蔵(№K2666)

▲写真2 頭巾型 西平ウメ氏製作 アイヌ民族博物館収蔵(№60525)

 

▲写真3 戦前の樺太で撮影されたイカムハハカ(後ろ側) 西鶴定嘉『樺太アイヌ』p73 
※見やすいようにハハカ本体以外の色を暗くしました

 『アイヌ民族誌』に、三上マリ子氏がハハカについて詳しく書いた箇所があるので、少し長いですが引用します(注2)

 これは物を覆う帽子の意味であり、袷仕立になっている。このイカムハハカは防寒用のもので、綿が入り、さしこ風に全体が白、黒の木綿糸で返し縫いで刺してある。またこのものの裏側に毛皮をとりつけたものもみられる。図に示すハハカの形は頭頂部は丸く、そこに綿の入った丸いプサ、紐が「とんぼ結び」に似た形状に結ばれ、十字状に飾られている。この十文字飾りをキタイヘといい、結ばれた部分をキタイヨシケという。帽子の下部は六・五cm幅の衿状をなし、下方にさげたり、また折り返したりできるようになり、後部は裂けていて、その間に長さ十二cmの舌状の垂下片がある。この衿状部には別の黒布をつけ、カーウェツエ(網の目文)の刺繍があり、下縁には赤い裂の縁取りがある。後下端には二cm幅の平たいプサが二本ずつさがっている。文様は頭頂部のキタヘの下面に二段、三段と重ねた切伏せが置かれ、その上に、カーウェツエ、チクパ(菱形文)、ゴスンブルー(蛇行文)などがあり、樺太アイヌ特有な文様である。

 この帽子のかぶり方は、飾りのある後裂部を後にしてかぶるが、衿部を五―六cm外側に折り返し、後裂部の先端のプサが肩上に垂れ下がるようにする。かた仕事のときには、両側のプサの先端を、切りまげた衿部の中におしこむ。また帽子の裏側に細紐がつけてあり、顎下で結ぶようになっている。(pp.271-272)

 

 ハハカの製法、形の特徴がよくわかります。なお、解説の内容は北大植物園の資料(№33019、写真4)について書かれたものですが、掲載されている写真は西平ウメ氏の作品(№2875 写真5・6)だと思われます。

▲写真4 頭巾型 北大植物園収蔵(№33019)

▲写真5 頭巾型 西平ウメ氏製作 『アイヌ民族誌』p271より

▲写真6 頭巾型 西平ウメ氏製作 『ヘンケとアハチ』巻頭写真より

 

 

キタイヘ(頭頂部飾り)の作り方

 

 キタイヘは「カラッジ」「あわじ玉」「釈迦結び」などと呼ばれる組紐の技法で作られています。ここでは、現在一般的に行われている釈迦結びの作り方を紹介します。実際には筒状にした木綿に綿を入れた紐で作りますが、ここでは組紐で手順を示します。左右の紐が見分けやすいよう、先に2色のテープをつけてあります。

▲1 組紐の中央を左手の中指にかける

▲2 右側の紐をひねって輪を作る  

▲3 左の紐を右へ持ってきて輪に通す

▲4 紐の先端を右へ回し、輪に通す

▲5 右の紐を左へ回し、輪に通す

▲6 指を抜いて紐を締める

▲完成

 このようにしてできた玉の紐を左右に開いてハハカの頭頂に縫いつけます。先に、まっすぐな短い紐を固定し、その上に重ねて固定するため、紐が十字型になります。紐の先端にビーズを付けることもあります。

 

おわりに

 

 樺太では男性が正装用に被るイナウカサという帽子があり、やはりキタイヘのような頭頂に立つ飾りがあります(これもそのうち紹介したいと思います)。前回紹介したソリ犬用の頭飾り「セタキラウ」やクマ用のイソキラウなど、樺太の被り物は頭にピョンと立った装飾が特色です。ハハカを作るのはなかなか大変ですが、キタイヘだけなら手軽に作れます。市販の帽子と合わせてみても面白いかもしれません。

 

参考文献
アイヌ文化保存対策協議会編
1970 『アイヌ民族誌』第一法規。

萱野茂
1978『アイヌの民具』アイヌの民具刊行運動委員会。

金田一京助・杉山寿栄男
1993(1941)『アイヌ芸術 服装編』北海道出版企画センター。

久保寺逸彦
1977『アイヌ叙事詩神謡・聖伝の研究』岩波書店。

久保寺逸彦編
1992『アイヌ語・日本語辞典稿』北海道教育委員会。

児玉作左衛門ほか
1968「アイヌ服飾の調査」『アイヌ民俗調査報告書』北海道教育委員会。

児玉マリ
1984「概説 アイヌの装い」『第25回特別展目録 アイヌの装い―文様と色彩の世界―』北海道開拓記念館。
1985「アイヌ民族の衣服と服飾品」『北海道の研究 第7巻 民俗・民族篇』清文堂。
1991「アイヌ民族の衣服」『第8回企画展アイヌの衣服文化―着物の地方的特徴について―』財団法人アイヌ民族博物館。

更科源蔵
 『コタン探訪帖』1、弟子屈町図書館。
 『コタン探訪帖』2、弟子屈町図書館。
 『コタン探訪帖』8、弟子屈町図書館。

知里真志保
1975(1954)『分類アイヌ語辞典 人間篇』『知里眞志保著作集 別巻Ⅱ』 平凡社。

西鶴定嘉
1942 『樺太アイヌ』樺太文化振興会。

福田アジオ・新谷尚紀・湯川洋司・神田より子・中込睦子・渡邉欣雄(編) 
1999『日本民俗大事典〈上〉』吉川弘文館。

藤村久和・若月亨編
1994 『ヘンケとアハチ』札幌テレビ放送株式会社(STV)。

三上マリ子
1986 『昭和60年度アイヌ衣服調査報告書(Ⅰ)-アイヌ女性が伝承する衣文化-』北海道教育委員会。

山本祐弘
1970 『樺太アイヌ・住居と民具』相模書房。

 

(注1)同書はアイヌ語の解釈において知里真志保氏の協力を受けています。ウイルタ語や文学についての情報も知里氏が提供したものかもしれません。

(注2)この解説ではイカムハハカが防寒用帽子の総称として使われていますが、先に参照した山本氏や西鶴氏は「毛皮を付けた物」をイカムハハカとしており、こちらの方が妥当でしょう。『アイヌ民族誌』の説明にも山本氏の記述に依っていると見られる箇所があります。文様の名称などは西平氏や藤山ハル氏からの聞き取りに基づくものと考えられます。こうした名称は、三上マリ子(1986)にまとめられています。

 

 

[シンリッウレシパ(祖先の暮らし) バックナンバー]

第1回 はじめに|農耕 2015.3

第2回 採集|漁労   2015.4

第3回 狩猟|交易   2015.5

第4回 北方の楽器たち(1) 2015.6

第5回 北方の楽器たち(2) 2015.7

第6回 北方の楽器たち(3) 2015.8

第7回 北方の楽器たち(4) 2015.9

第8回 北方の楽器たち(5) 2015.11

第9回 イクパスイ 2015.12

第10回 アイヌの精神文化 ラマッ⑴ 2016.1

第11回 アイヌの精神文化 ラマッ⑵ 2016.2

第12回 アイヌの精神文化 ラマッ⑶ 2016.4

第13回 アイヌの精神文化 ラマッ⑷ 2016.5

第14回 アイヌの衣服文化⑴ 木綿衣の呼び名 2016.6

第15回 アイヌの衣服文化⑵ さまざまな衣服・小物 2016.7

第16回 樺太アイヌのヌソ(犬ゾリ)-1 2016.12

第17回 樺太アイヌのヌソ(犬ゾリ)-2 2017.1

第18回 樺太アイヌのヌソ(犬ゾリ)-3 2017.2

第19回 樺太アイヌのヌソ(犬ゾリ)-4 2017.3

第20回 アイヌの衣服文化⑶「アイヌ文様は魔除け?」を検証してみた 2017.4

 

 

 

 

 

《エカシレスプリ(古の風習)11》 刀帯作りあれこれ(5)緯糸の編みかた-③

 

 文:大坂 拓(北海道博物館アイヌ民族文化研究センター 研究職員)

 

はじめに

 

 刀帯作りを紹介するこの連載も5回目をむかえました。今回はいよいよ、文様がない「無文部」を編み終えて、文様がある「文様部」の編み方へと進んでいきます。

 刀帯作りあれこれ ▶(1) ▶(2) ▶(3) ▶(4)

 

1.経糸の本数を増やす方法

 

 博物館等に収蔵された資料を見ると、無文部から文様部にかけて、幅が広くなるものが非常に多く見られます(写真1)。

▲写真1 文様部にかけて幅が広がる事例(市立函館博物館所蔵 H05-R106-02 )

 幅を広げる技法には、①無文部から文様部に移行する箇所で経糸を太くする方法と、②経糸の本数を増やす方法があります。②の経糸の本数を増やす方法をとる場合、無文部は20数本、文様部は36~40本程度になる例が多く、増やす手法にはa:文様部の長さよりもやや長い経糸を1本ずつ加えていくb:文様部の長さの二倍程度の経糸を二つ折にしたものを逆U字形に挟み込み、経糸を一度に2本増やす、などのバリエーションが見られます。他には、c:1本の経糸を2分割するという方法もあります。

 次に示す写真2~4は一本の刀帯ですが、一方の無文部・文様部境界には、逆U字形の頂点が見えているのに対し(写真3)、もう一方では、1本毎に切断された端部が見えています。このような場合、元は全て「b:文様部の長さの二倍程度の経糸を二つ折にしたものを逆U字形に挟み込み、経糸を一度に2本増やす」の手法だったものが、後に一方だけ切り取られた可能性と、「a:文様部の長さよりもやや長い経糸を1本ずつ加えていく」の手法が併用されていた可能性があり、区別できません。

▲写真2 経糸を足す事例(北海道博物館所蔵 33295 表面)

▲写真3 経糸を足す事例(北海道博物館所蔵 33295 裏面①)

▲写真4 経糸を足す事例(北海道博物館所蔵 33295 裏面②)

 また、一段で一気に経糸を増やすことで幅を急激に広げるものもあれば、何段かに分けて徐々に経糸を増やして幅を広げていくものもあります。どのような形に仕上げたいかによって、手法を使い分けると良いでしょう。

 私は、無文部の経糸28本に、約70cmの糸4本を二つ折りにしたものを加え、文様部の経糸を36本とするもの(写真5・6 左)、無文部22本に約70cmの糸7本を二つ折にしたものと約36cmの糸2本を加え、文様部の経糸を38本にしたもの(写真5・6 右)を作ってみました。

▲写真5 復元製作事例 表(2点とも筆者製作)

▲写真6 復元製作事例 裏(2点とも筆者製作)

 二つ折にすると、折り返した部分を挟みこんだ箇所で編み上がりがやや不規則になってしまいますが、古い資料を見てみても、この部分の仕上げには様々な工夫(苦労?)のあとがうかがわれます(写真7・8)。そのまま再現してみるのも良いですし、折り返し部分をごく細く撚っておくなど、工夫を加えることもできるでしょう。

▲写真7 経糸を増やした箇所で緯糸に隙間が生じている事例(市立函館博物館所蔵 H05-R106-02 )

▲写真8 裏面に飛び出したままの経糸の一部(市立函館博物館所蔵 H05-R112-07)

 

2.文様部の編み方

 

(1)文様の編み始め

 いよいよ、文様を編み始める準備が整いました。無文部では緯糸にイラクサの繊維をよったものを用いましたが、文様部では、博物館収蔵資料を見ると木綿糸を使用したものが最も多く見られ、太さや撚りの方向は、現在市販されているレース糸の60~20番程度に近く、多くは2本取りで使用していることが分かりました。今回はレース糸20番の紺・白を購入して使用することとしました(資料の中には黒と茶色の組み合わせのように見えるものがたくさんありますが、元は生成りの白と藍染の濃い紺色だったものが、囲炉裏でいぶされるうちに色が変化したもののようです)。

 文様部の編み始めには、しばしば単色の紺と白を交互に用い、「技法A」で1~3cmほど編み進めた部分があります(写真7~9)。これは文様の区画の他に、幅を整える意味があるのかもしれません。

▲写真9 文様部の上端に「技法A」が用いられた事例(旭川市博物館所蔵 4191 )

(2)編みの「技法B」の特徴

 編み始める前に、どのような文様を編むか決める必要がありますが、今回は比較的例が多い文様から選ぶこととしました。なお、経糸の本数によって選択できる文様が決まってしまいますので、製作してみる場合には、自分が作りたいと思っている文様のものは経糸が何本なのか、しっかり確認しておく必要があります。

 前回紹介した「技法A」では、経糸2本毎に緯糸の表裏が入れ替わるため、文様のバリエーションにはかなり限界があります。それに対して、今回紹介する「技法B」では、緯糸を入れ替える箇所の自由度が高く、様々な文様を編むことができます。

 まず、編み始めの部分で使用した紺木綿糸2組のうち一方を切断し、白木綿糸を結びます。博物館収蔵資料の中には、結び目が裏に出ているものもたくさん有りますが、結び目の場所が丁度経糸の間に収まるようにすると、裏面もきれいに仕上げることができます。

 続いて、紺色の緯糸を端にあたる経糸2本に2回巻いて表に出し、紺が連続する場合、裏から白を出し、同じ箇所で再び裏に送ります。紺と白を入れ替える場合、裏から白を出し、紺を裏に送ります。このとき、緯糸を通す順によって、前回紹介した「技法A1」・「技法A2」と同様、編み上がりの違いが生じますが、古い資料ではほぼ全て「技法B1」なので、今回は「技法B1」で編み上げることとしました(写真10)。

▲写真10 「技法B1」による編み方(筆者実演)

(3)文様の把握のしかた

 最近では、表計算ソフトなどを使用して文様を模式化したものが刊行されており(財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構2007ほか)、入門者でも、それを見ながらすぐに複雑な文様に挑戦できるようになっています。ただし、ある程度慣れてくれば、そのようなお手本無しで文様を組み立てていくことも可能です。

 今回選んだ文様の場合、経糸36本・38本のうち、両端の色が変わらない部分(経糸36本の場合は8本、経糸38本の場合は10本)を除き、文様を編み出す部分は28本となります。よく見られるのは、紺と白が経糸4本ずつ交互に連続し4+4+4+4+4+4+4=28本となるものや(写真11)、6+6+4+6+6=28本となるものなどです(写真12~15)。

▲写真11 経糸36本・文様を構成する28本は「4444444」の分割(市立函館博物館所蔵 H05-R109-03 )

▲写真12 経糸36本・文様を構成する28本は「66466」の分割(市立函館博物館所蔵 H05-R112-02)

▲写真13 経糸36本・文様を構成する28本は「66466」の分割(旭川市博物館所蔵 4191 )

▲写真14 経糸36本・文様を構成する28本は「66466」の分割(旭川市博物館所蔵 4226)

▲写真15 経糸38本・文様を構成する28本は「66466」の分割(市立函館博物館所蔵 H05-R108-04)

 どのような分割を選ぶかが決まれば、後は真っ直ぐ下に編み進める部分と、斜行する部分がどのように組み合うのかを考えます。斜行する部分の始まり、は多くの場合で横一直線になりますので、編み間違えることは少ないでしょう(写真16)。

▲写真16 文様の直線部分と斜行する部分の関係(市立函館博物館所蔵 H05-R106-02)

▲写真17 片側が編みあがった状態(筆者製作)

 

3.さいごに

 

 編みの作業はたいへん根気を要しますが、編みながら古い資料を何度も見なおすことで、自分が作っているものと何が同じで何が違うのか注意深く観察する目が養われ、それまで全く気がついていなかった、多くのことが分かるようになりました。気がついた事を活かした分析の成果については、3月に研究論文の形で発表しています(「アイヌ民族の刀帯―分類群の共時的分布と通事的変化―」『北海道博物館アイヌ民族文化研究センター研究紀要』第2号)PDF。内容がやや専門的ですが、この連載を見て興味をもたれた方は、こちらもぜひご覧になってみて下さい。

 次回は、刀通しと房の作り方にみられる様々なバリエーションを紹介し、この連載の締めくくりにしたいと思います。

 

参考文献
古原敏弘・村木美幸1998「エムシアッについて―アイヌ民族博物館が所蔵する児玉コレクションから―」『アイヌ民族博物館研究報告』第6号

財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構2007『アイヌ文化生活再現マニュアル 編む―タラ・エムシアッ』

財団法人アイヌ無形文化伝承保存会1986『アイヌ文化伝承記録映画ビデオ大全集 シリーズ(4)フチとエカシを訪ねて 第4巻~織る・奏でる・祈る~』

 

 

[バックナンバー]

《エカシレスプリ(古の風習)1》儀礼用の冠を復元する⑴ 2016.1

《エカシレスプリ(古の風習)2》儀礼用の冠を復元する⑵ 2016.2

《エカシレスプリ(古の風習)3》儀礼用の冠を復元する⑶ 2016.3

《エカシレスプリ(古の風習)4》木綿衣の文様をたどる 2016.4

《エカシレスプリ(古の風習)5》小樽祝津のイオマンテ 2016.5

《エカシレスプリ(古の風習)6》噴火湾アイヌの信仰-イコリの神 2016.7

《エカシレスプリ(古の風習)7》刀帯作りあれこれ(1) 2016.10

《エカシレスプリ(古の風習)8》刀帯作りあれこれ(2) 2016.11

《エカシレスプリ(古の風習)9》刀帯作りあれこれ(3) 2017.1

《エカシレスプリ(古の風習)10》刀帯作りあれこれ(4) 2017.3

 

 

 

 

 

 

《伝承者育成事業レポート》アイヌと自然講座、第四期生はじめの一歩

 

 文 :安田千夏(アイヌと自然講座講師)

 写真・伝承者育成事業第四期生

 

 新年度となり、伝承者育成事業はフレッシュな新入生、第四期生の5名を迎えて新たなスタートを切りました。これから3年間かけて、何を吸収しどんなふうに成長して行ってくれるのだろうと思うと本当に楽しみです。「アイヌと自然講座」と名を打つ私の担当日は4月、5月にそれぞれ1回ずつが既に終了し、北海道での自然散策をする機会が今まであまりなかったという受講生が多かったので、軽くウォーミングアップを兼ねて、自分たちが3年間繰り返して利用するフィールド、ヨコスト湿原(2015.8月号)とポロト自然休養林(2015.6月号)を歩いて来ました。

 ヨコスト湿原では、アイヌ文化でゆかりの深いオオジシギ(2016.5月号)やヒバリのディスプレイフライトを見ることができました。オオジシギはこの季節には夜でも街中で派手な音を立てているので、何だろうと不気味に思っていた受講生もいたようです。「な〜んだ、鳥だったのか。おばけかと思っていた」というひと言には思わず笑ってしまいした。正体がわかりこれからは安眠できそうで良かったです。そしてディスプレイフライトをするのがオスのみであり、メスにアピールするための繁殖期特有の行動であることも知り、今後鳥に興味を持つためのつかみはOK(だったかな?)。

 水場を見るとカモ類の姿が2、3羽のみ。ところが何のきっかけかはわかりませんが、急に草かげからわらわらと出て来て一転にぎやかになりました。キンクロハジロ、コガモ、オシドリ、ハシビロガモ…。そしてしばらくするとまたいっせいに姿を隠してしまい、どこにいるのか皆目見当がつきません。かくれんぼ上手だなあ、と改めて感心してしまいました。

▲写真1 突然姿を現したカモ類 奥の白い鳥はチュウサギ(注1) ヨコスト湿原 5月12日

 ポロト自然休養林では、葉が出るのが比較的早い部類の樹木サワシバにみんな興味津々でした。アイヌ語名は「パセニ(重い木)」。昼食に立ち寄ったビジターセンターの樹木標本があったので手に取り、重くて運ぶのが大変なのでまきにするのは適さない木であるという話をし、その重さを確認しました。実際に手で触れて確認するという機会はこれからも可能な限り大切にしたいものです。

▲写真2 サワシバの芽吹き ポロト自然休養林 5月12日

 ポロト森の中でいくつかの巨木がみられるミズナラ、アイヌ語名は「ペロ(ニ)」。今日歩いたコースの中で最も太い木の写真を撮りました。この種は芽吹きが遅い部類なので、今はまだちらほらとしか葉が出ていません。木によって芽吹きの時期が異なるということも勉強しました。

▲写真3 ミズナラの巨木 ポロト自然休養林 5月12日

 9年間受講生達と一緒に何度も通って来た道を、これから新しい仲間と一緒にあわてずにゆっくり歩んで行くことにしようと気持ちを新たにしました。以下に、初回の講座で印象に残った動植物についてまとめてもらったレポートを紹介します。「はじめの一歩」はこうだった、といつでも初心に返ることができるように。そして月刊シロロでは、このメンバーがこれからの3年間活躍しますのでどうぞご期待ください。

 キバナノアマナは名前の通り黄色いかわいらしい花が咲く植物です。また葉がにらのように細く長いのが特徴です。私たちがポロトの森で見たときはまだ出始めだったようで黄色い花は見られず、葉だけが10センチほどに伸びていました。新芽ということで色がやさしい緑色だったのも印象的です。

 アイヌ語では「チカプトマ」「チカッポトマ」などと呼ばれます。キバナノアマナの根を掘り起こしてみると根が球根のようになっているらしく、この根を乾燥させて保存したり、焼いて食べたり、煮て食べたり、汁の具にして食べていたそうです。

 これから3年間植物に触れることが多くあると思うので、ぜひ自分でも採集して食べてみたいと思います。(川上さやか)

 ポロト湖畔のミズバショウの群生地の近くを歩いていると、セリに似た雰囲気のこんもりした青い植物が生えているのを見つけることが出来ました。これは、「エゾフユノハナワラビ」という日本語名のハナヤスリ科の植物で、アイヌ語名を「プクサキナ」と言われる植物です。更科源蔵著の『コタン生物記』には、このエゾフユノハナワラビのことは、「春先、雪の下から平気で水気をたっぷりふくんで出て来る、柔らかい緑を持ったこの草を取って来てきざみ、乾魚の煮た上にかけて舌鼓をうった昔を忘れずに、今も雪の早く消える水辺に春が来ると探しに出かける」と書かれています。是非食べてみたいと思わせる記述です。(後藤優奈)

 担い手育成事業の一環でポロト周辺の散策を行いました。今まで植物に触れてこなかった自分にとっては全てが新鮮なもので目を引かれましたが中でもオオウバユリに興味がわきました。

 というのは小さくかわいい花、大きく立派な木等さまざまある中で、オオウバユリは花を咲かせ終え、果実を実らせた部分をシカに食べられて枯れようとしているところに、他にはなかった切なさを感じたからです。ですがその後話を聞くところによるとシカに食べられなくとも花を咲かせ果実を実らせた後枯れてしまうが根の部分から新たに球根ができ、また時が経つとそこから立派に花を咲かせるということでたくましさを感じました。

 私も何か沈む時があったとき、根は腐らずまたたくましく花を咲かせるような人間になりたいと思います。(早坂 駿)

 ハルニレはアイヌ語でチキサニという名前で、「こすって火を出す」という意味を持ちます。その名の意味の通り良い薪になる他この木から取れる繊維は糸としてはあまり強くないものの織物に文様を織り込みたい時に使われ、靴下のような役割の「ケルルンペ」を作るのにも適していたと言われています。

 チキサニは伝承されている神話によると力の強い神様として登場することが多いのですが、気性が激しい神様なので家の柱などにはしないと伝えられています。 これはあくまで個人的な考えですが、チキサニは良い薪になる木材なので、非常に燃えやすい=気性が激しいという発想?が生まれ、火事の危険性などもあることから家の柱には使うなという言い伝えが生まれたのではないかと思いました。(篠田マナ)

 今日は、はじめてのアイヌと自然講座第1回目で、ポロト自然休養林へ学習に行きました。その際に色んな植物の学習をしましたが、私にとって一番判りやすかった植物が「マカヨ(フキノトウ)」でした。まだたくさんの植物が生えていない中、黄色いブロッコリーが生えているように見えて、最初に覚えました。また、この「マカヨ(フキノトウ)」は雄と雌の2種類あるというのが、戻ってから知り、自分の観察力の甘さに気づきました。これからの動植物の学習では観察をしっかりして、すぐに見極められる人になりたいです。

 フキノトウは大きく成長するので、私も大きく(体ではなく)成長したいです。(米澤 諒)

 ミソサザイは、水辺でみられるとても小さな鳥です。アイヌ語でチャクチャクといいます。野鳥のアイヌ語由来にはいくつかありますが、ミソサザイは鳴き声からつけられています。トシリポクンカムイ等とも呼ばれています。ミソサザイを特に重要な神として、祭壇にミソサザイを祭るイナウを捧げる地域があります。

 そのため、口承文芸の中でも良い神様として語られています。例えば、フリというとても大きな怪鳥が神でもなんでも食べて悪さをしているところをこのミソサザイが体の小ささをうまく利用し懲らしめたお話があります。また、立派な神が一つのことに集中して人間界を見守ることを怠り、その間に人間達が飢餓に陥ってしまったときにちゃんと叱りにくるのがこのミソサザイです。

 とても小さな鳥ですが神として大切に祭られていることに私は興味を持ちました。ミソサザイを見習い、どんなにえらい人でも間違っているときは臆することなく意見を言える男になりたいです。(山丸賢雄アシスタントティーチャー)

 

(注1)少し前まで北海道では「稀な夏鳥」と言われていたチュウサギですが、近年明らかに個体が増加しています。白老でも夏場は普通に見られるようになりました。

 

 

 

[バックナンバー]

《図鑑の小窓》1 アカゲラとヤマゲラ 2015.3

《図鑑の小窓》2 カラスとカケス   2015.4

《図鑑の小窓》3 ザゼンソウとヒメザゼンソウ 2015.5

《自然観察フィールド紹介1》ポロト オカンナッキ(ポロト湖ぐるり) 2015.6

《図鑑の小窓》4 ケムトゥイェキナ「血止め草」を探して 2015.7
《自然観察フィールド紹介2》ヨコスト マサラ ウトゥッ タ(ヨコスト湿原にて) 2015.8

《図鑑の小窓》5 糸を作る植物について 2015.9

《図鑑の小窓》6 シマリスとエゾリス 2015.10
《図鑑の小窓》7 サランパ サクチカプ(さよなら夏鳥) 2015.11

《図鑑の小窓》8 カッケンハッタリ(カワガラスの淵)探訪 2015.12

《図鑑の小窓》9 コタンの冬の暮らし「ニナ(まき取り)」 2016.1

《図鑑の小窓》10 カパチットノ クコラムサッ(ワシ神様に心ひかれて) 2016.2

《図鑑の小窓》11 ツルウメモドキあれこれ 2016.3

《図鑑の小窓》12 ハスカップ「不老長寿の妙薬」てんまつ記 2016.4

《図鑑の小窓》13 冬越えのオオジシギとは 2016.5

《図鑑の小窓》14「樹木神の人助け」事件簿 2016.6

《図鑑の小窓》15 アヨロコタン随想 2016.7

《図鑑の小窓》16「カタムサラ」はどこに 2016.8

《図鑑の小窓》17 イケマ(ペヌプ)のおまもり  2016.9

《図鑑の小窓》18 クリの道をたどる 2016.10

《図鑑の小窓》19 くまのきもち 2016.11

《図鑑の小窓》20 エンド(ナギナタコウジュ)のつっぺ 2016.12

《図鑑の小窓》21 わけありのラウラウ(テンナンショウの仲間) 2017.1

《図鑑の小窓》22 春待つ日々のサクラ4種 2017.2

《図鑑の小窓》23 タクッペ(やちぼうず)の散歩 2017.3

 

 

 

 

 

 

 

 

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